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2007年9月 9日 (日)

レンガの塔が美しいポンポーザ大修道院 Abbazia di POMPOSA

あまり聞きなれないポンポーザ(Pomposa)という地名。私も全然知らなかったし、当然予定には入っていなかったのだが、車でフェラーラからラヴェンナに行こうとしたとき、地図を見ると、なんとミシュランの2つ星である”ポンポーザ”という教会マークを見つけた。

少々遠回りになるけれどそんなに遠くもなさそうだし、名前も面白いので行ってみることにした。後で、これが原因で時間的に苦しくなり、ボローニャをパスすることになってしまうのだが、その時はそんな先の事、分かるよしも無かった。

Paysage_2 のどかに広がった畑の中を、両側には背丈以上もある雑草がところどころ生えている田舎の幹線道路といった二車線道路を、車はのんびりと走っていき、ようやく小さなPOMPOSAと書かれた看板を見つけ、右折した。

この全景絵葉書を見てわかるとおり、回りには何も見当たらないし、あまり大きな修道院でもなさそう。

駐車場は、この景色の右方向にあり、何台か車が止っていた。たった一台だけの観光バスには、沢山のドイツ人がどやどやと乗り込んでいた。あァー、一緒じゃなくて良かった。

右方向から木々の間をのんびりと歩いて、美しい塔の前を通り過ぎ、少し上にある直方体のような建物に行く。ここは売店になっており、チケットが購入できる。元は、大修道院長が裁判を行ったというラジョーネ宮殿(下の写真)と呼ばれる場所。下のチケットを見ると、一人4ユーロのようですね。

Jardin_2 Billet_4  

このラジョーネ宮殿では、当時の大修道院長が管理地区の裁判をしていた場所だそうだ。ここを背中にして真直ぐ歩いて教会の中庭の方へ行く。

Front と、右の写真のように建物が見えてくる。縦に細長い小窓の数が下から順に多くなっていく塔がどーんと建っている。階層ごとのしきりにあたる小アーケードや帯状の細かな装飾がリズムを作っていて美しい。レンガの褐色の濃淡が心地よく、全くバランスがとれている。

そのそばの教会の入り口であるナルテックッスは、後で継ぎ足されたように屋根が不自然に繋がっている。入り口(しかし、ここからは入れない)の文様は下の写真。     

Motif_4 テラコッタでできたすかしのある丸窓は、植物の葉や鳥の絡み合った模様で飾られ、またその外側をレンガの濃淡で美しく守られている。その上にある帯状に伸びた文様も、葉や鳥の絡み模様が繋がっている。 

素朴な模様の外見から、バジリカ聖堂内部も同じくシンプルなのかも思っていたら、やはりイタリアの聖堂らしく、全然異なっていた。

Cour 先ず、中庭の右側にある建物から入った。薄くなったり剥げたりしているフラスコ画のある広い部屋、そこはかつて食堂だった所。何も置かれてない。

次の部屋は、右の写真の右の入り口から入る元修道士達の部屋。そこは今、博物館となっており、植物文様に施された柱頭やその他の装飾の断片を見ることができる。

さて、いよいよ聖堂内へ・・・おお!こうなっていたとは・・・

Interieur バジリカ聖堂なので、広くもなく高くもなく、屋根は木製、そして古い・・・しかし、なんと見事なこの床のモザイクと一面のフレスコ画!!これだからイタリアの教会は面白い。

正面は、栄光のキリスト、玄関の裏側部分は、最後の審判、身廊の上段の壁のフレスコ画は旧約聖書、中段はキリストの生涯、そして、アーケードの三角部分は黙示録の場面と、一面に描かれている。

これは14世紀に描かれたらしいが、少々色は薄れている部分もある。しかも、床のモザイク部分は、紐が張られていて歩けないので、稼動範囲が狭くなり、なんとなくじっくり見られない。

床のモザイクは、小さな三角や四角を組み合わせた幾何学的模様だけでなく、像、鹿、ライオン鳥などの動物もはめ込まれている。これらは、ゲルマン文化の影響と思われる。また、組みひも模様もあるので、ケルトの文化の影響もこんなところまできていたのだろうか?

ポンポーザの情報サイト http://www.pomposa.info/ を読んでみた。イタリア語を読むのは、フランス語の単語と似ているので有難い。ざーっと訳してみると、

Jugement 歴史的には、6Cから7Cの間に、瞑想や勉強に適した静かな場所を求めてラヴェンナから来たベネディクト派の修道達が定住したのが始まりらしい。記述がはっきり残っているのは、874年、そのころ、この地の管轄権をめぐってラヴェンナの司教と教皇庁の間に争いがあった。ところが、ポンポーザ自体は、活発に活動し、ラヴェンナからもパヴィアからも独立を目指し、当時の皇帝オットー3世と教皇シルヴェスター二世から承認の署名をもらい、1001年に独立を果たす。

10世紀から12世紀にかけて、ポンポーザはイタリアの中部から北部にかけて49の教会の管轄権を持っていて、宗教的にも文化的にも中心的役割を担っていた。なんと、音階を発明したのが、ここの修道士グイード・ダレッツオ(Guido d'Arezzo)だとか。また、蔵書の多さも有名だったが、その後取り返しがつかないほど分散してしまったらしい。

Pomposachat_3 この地はイタリア最長の川ポー川の下流デルタ地帯で、昔から洪水に悩まされてきた地域らしいが、ポンポーザもまさしく洪水の大参事で、海岸付近の土地が水に浸かってしまい、それ以降衰退をたどる。1553年には、フェラーラの聖ベネディクト派の新しい修道院となった。・・・

もう行く機会もないだろうポンポーザ。観光客もほんとに少なく、落着いて見られた。こういう田舎町はいいなあ。

最後にラジョーネ宮殿にいた猫ちゃんを紹介。その横に座って、暫らくぼーっとしていたかったなあ・・・

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イタリアの教会 Le chiese di Italia」カテゴリの記事

コメント

こんにちは
イタリア・ジェノヴァに2年半ほど住んでいたので、ポンポーザ修道院は行きました。
はじめは、「ヴィオロン・ポンポーザ」との因果関係は・・が始まりです。イタリアは楽器製造所が多いのでこの地で出来たのかと思ったのですが、違いました。
しかし、ポンポーザ時代に今の音楽の「ドレミファソラシ」の「階名唱法」が出来たと言うことを知りました。
伝えたのは、この地で音楽教師をグイード・ダレッツオなる人物だそうです。建築に関しては、ベネディクト派の建築物では一級品だと言うことくらいで詳細は解りません。
cojicoさんのブログを見て、そんな感じだったな~とその程度の記憶です。バシリカ風・・それにロマネスク建築自体、数が多すぎて理解不能。日本の仏像を見ているようです。
建築物には興味はあるのですが、この機会に勉強します。
しかし、この近くの小さな曲がりくねった道を進み、レストランで
食事をしたことは覚えています。
いろんな町のレストランを訪ねました。あるときは民家で食べて事もあります。
観光に関しては典型的なミーハー観光です。
ボローニアは、ソーセージとジュリエット、ラヴェンナは、カエサルの軍事要塞都市、その程度の情報量で旅が始まります。

イタリア建築に関しては、cojicoさんのブログで少し勉強します。
単純なもので・・今宵はヴィオロン・ポンポーザ・・繋がりで、J.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲」でも聞いて初秋のイタリアを思い出すことにします。
ありがとうございました。

投稿: kju96 | 2007年9月11日 (火) 11時39分

kju96さん

毎回のコメント、ありがとうございます。
私もkju96さんの所に何か書きたいのですが、kju96さんのゲストの方々のエネルギーに圧倒され、途中まで書くものの、止めたりしています。
最初に書けたのは、何も知らなかったからなのでしょうね。

さて、kju96さんもポンポーザに行かれましたか。イタリアに住んでいると、やはり訪れるべき場所なのでしょうね。
近くにレストラン?あの周りにそのような気の利いた場所があったのですか!確かに道路沿いには、ぽつりぽtりと小さいガソリンスタンドがあったりはしましたが・・・。

民家で食べたなんて、凄い経験ですね。どのような事情だったんでしょうか?興味が沸いてきます。
その上、ラヴェンナが、カエサルの軍事要塞都市だったなんて!

実は、ラテン語を2年ほど勉強したときに、乾いた文章(要するに形容詞などが少ない)で読みやすいという「ガリア戦記」の一部分をラテン語で読んだのですが、ラヴェンナの話は、知りませんでした。そうだったのですか・・・

>ロマネスク建築自体、数が多すぎて理解不能。日本の仏像を見ているようです。

この表現、いいですねえ。私もあまり知識はないのですが、少しずつ勉強だと思って書いています。

ところで、”ヴィオロン・ポンポーザ”についてですが、これは、”ヴィオラ・ポンポーザ”ではないですか?
このポンポーザという単語は、名詞ではなく形容詞だと思います。pomposo という形容詞の女性形で、pomposa。
意味は”壮麗な、華麗な、豪華な”でして、viola が女性名詞なので、 "la viola pomposa"(壮麗なヴィオラ!)となるのではないでしょうか。

ヴァイオリンのイタリア語は、”小さいヴィオラ”という意味でヴィオリーノ(violino)と言う男性名詞、ヴィオロン(violon)はフランス語(男性名詞)だと思うのですが・・・。
どちらにしても、ヴァイオリンは男性名詞なので、言語的には、”ヴィオロン・ポンポーゾ”となると思います・・・

でも、きっと一般に皆さんが、”ヴィオロン・ポンポーザ”と呼んでいるのであれば、本来の文法など関係なくなってしまいますよね。すみません、ごちゃごちゃと言いまして・・・言語になると、結構気になってしまうのです。

音楽は、人を豊かにしますね。kju96さんの文章を読んでいると、それが実感できます。

投稿: Cojico | 2007年9月11日 (火) 22時17分

こんばんわ
cojicoさんの言われるとおりです。
”ヴィオラ・ポンポーザ”です。失礼しました。
ポンポーザはスペイン語?
いい加減ですのでこれからもご指導をお願いします。

投稿: kju96 | 2007年9月12日 (水) 02時03分

kju96さん

上で書いた意味はイタリア語だったのですが、スペイン語でも調べてみましたら、pomposo, sa は、形容詞で”華麗な”という意味でした。
さすが、同じラテン語系列の言語ですね。
ラテン語系とはいえ、直系からはずれているフランス語では、これと似た単語はありませんでした。

良い勉強になります。

 

投稿: Cojico | 2007年9月12日 (水) 20時49分

Cojicoさん

いつも読みにきているのですが、うれしい内容が多くて、書き込むにはじっくり時間をとりたいしで、こんなに日が過ぎてしまいました。

私は1冊だけ翻訳書を出したことがあるのですが、そのなかでグイード・ダレッツォにふれている箇所があったので、彼とソルミゼーションにずっと興味を持っていました(持っているだけで止まっている・・・)。なので、この記事を読んで、とてもうれしかったのです。修道院の名前も知らなかったし、こんなすばらしいところだということも知りませんでした。

テラコッタ、すかし模様のある窓、幾何学文様、組紐文様、バジリカ、いろいろな文化が流れ込んでいるのですね。栄光のキリストの構図や壁に描かれた感じ、建築の感じは、スクロヴェーニで見たジョットーの手になるものも思い出します。人のエネルギーのあつまり、勉学もきっと盛んだったのでしょうね。

なんといっても、中世の交通路の一つ、フェラーラからラヴェンナを車で走られたなんて!いいな~!フェラーラにもいつか行きたいのです。ネコと修道院、ネコと廃墟、ネコと文化遺産など、好きな組み合わせです!

投稿: あむ | 2007年9月25日 (火) 21時42分

あむさん

お疲れなのにコメントを書いてくださってどうもありがとうございます。もう、少しは落着きましたか?気候も少し過ごしやすくなりましたね。

そうそう、あむさんは有名な翻訳家に教わっていたのでしたね。翻訳本も出されているなんて凄い!そのような立派な方とこうやってお話できるのも有難い事です。感謝いたします。

グイード・ダレッツォについては、現地で購入したポンポーザに関する本(英語版)を読むまでは知りませんでした。教会に置かれている大きな楽譜、4本線に四角い音符の書き方は、彼が考案したのですね。

もうご存知だとは思ったのですが、この本の解説部分を訳そうと試みましたが、ここに書く前にウィキペディアを調べてみましたら、なんとほぼ同じ内容が日本語で書かれていてびっくり。
http://ja.wikipedia.org/wiki/グイード・ダレッツォ

ド、レ、ミ・・・は、「聖ヨハネ賛歌」のそれぞれの句の始めの音なのですね。初めて知りました。

この英語版の本によりますと、グイード・ダレッツォがポンポーザに来る前から、ここの聖歌隊は当時すでに有名だったのだそうで、しかも、暗記に寄って聖歌を伝承すること、教えることが修道士の特権だったのだそうです。

ところが、ダレッツォの考案した楽譜を使うと、簡単に大衆に教えることが出来るわけで、特権を奪われることを危惧した修道士達に疎まれ、ポンポーザを追い出されるのです。

結局は、彼の功績はローマ法王にまで認めてもらえるのですが、何事も新しいことを受け入れてもらえるまでには、精神的苦痛と時間がかかるのですね。

ところで、あむさんもスクロヴェーニ教会へ行かれたのですね。すばらしかったですねェー、あのフレスコ画!やはりフェラーラのフレスコ画より断然すばらしいと思います。・・・ほんと、教会建築は、人々の知識、芸術、エネルギーの結晶ですね!

どうして、遺跡とネコって、こんなに合うのでしょうね。腰のゆったり感がいいのでしょうか?

投稿: Cojico | 2007年9月26日 (水) 10時45分

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