La petite fille de Monsieur Linh リンさんの小さな子
以前読み始めた頃に少し書きましたが、もう次の日には読み終えていたほど、夢中で読んでしまった本。
戦争で息子夫婦を失い、ただ一人残った息子夫婦の小さな娘を抱え、バッグには母国の土を忍び込ませて亡命してきたリンおじいさん。
同じ国からきた人々とは交流できず、年配で、また言葉も解らない彼には非常につらい世界。思い出すのは、光り輝く太陽の下、緑の美しい故郷の話ばかり。その情景が、今いる彼の街(フランスと思われるが、街名も国名もでてこない。)の、寒く灰色の空と比べて、夢の中のように美しい。
外出を勧められたリンさんは、小さな子を寒さから守るためにありったけの服を着せ、寒く暗い未知の街に繰り出す。孤独なりんさんが知り合ったのは、公園でタバコを吸っていた年配の男性バルク。言葉は発するもののお互いわからないので、ジェスチャーを交え、また心で会話し始める。
バルク氏から女の子の名前を聞かれて、リンさんは、「Sang diu」と答える。母国語では、「穏やかな朝」という意味らしいのだが、バルク氏はそれを「Sans Dieu」(” without God”の意)と発音するところが、なんだか読み手としては悲しい。
二人の老人は、言葉の限界など関係なく、どんどん心を通わせていく。バルクさんがにリンさんをカフェに誘ってくれた御礼に彼にタバコをあげたいと、難民の世話人にタバコを頼み、また、それを彼に差し出す前のリンさんの気持ちなどが切々と伝わってきて、ほんとうに胸が熱くなる。
このようにささやかではあるけれど、抱きしめたくなるような暖かい交流を重ねる二人。しかし、運命はそれを続かせてはくれない。最後のリンさんの焦る気持ちは、みんなの胸を締め付けるだろう。そして衝撃の最後。
でも、映画「髪結いの亭主」のような最悪のパターンではなくて、ほんとよかったー。きらっと光る本です。日本語訳もみすず書房から「リンさんの小さな子」として出ているようですので、図書館でも見つかるでしょう。お勧めです。
よく考えるとそういえば、フィリップ・クローデルの本は、過去のに2冊接していました。一冊は「灰色の魂」、随分前に図書館で借りた日本語の本で読み始めたのですが、題名と同じように、あまりにも暗い暗い話で、途中で期日がきて返却してしまいました。雨交じりの灰色の空の下、少女の死体発見から始まる物語。記憶は薄れているので、いつかまたチャレンジしたいと思います。
もう一冊は「Le Bruit des trousseaux」。”鍵の束の雑音”と訳していいのでしょうか。日本語訳はまだなさそうです。クローデルは若い頃、11年間もの間週に3回刑務所に通い、囚人達に文学を教えていたそうで、服役していたいろんな人とのかかわりを断片的に書いたもの。先生として犯罪者達と係わっていたものの、やはり心の奥には隠せない緊張感が漂っていていたのを覚えています。
フィリップ・クローデルの作品はどちらかというと暗いのですが、彼のフランス語は変な癖も無く気負いもない自然な文章なので読みやすく、気に入っています。
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