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2010年3月26日 (金)

映画「海の沈黙」 le silence de la mer 岩波ホール

Silence 友人が、昔この映画の原作ヴェルコール著「海の沈黙」を読んでとても感動した、と話していた。なんでも、普通の庶民の家に滞在しているドイツ人将校(ドイツ侵略当初はこういう状態だったらしい)に対し、いくら彼がフランスを称賛するような話をしても、一言も声を発しないという抵抗を貫いた市民の話だそうだ。

映像の始まりがちょっとしゃれていた。トレンチコートを着た黒い鞄を持って歩いていた男が、立ち止まっていた男とすれ違った時、鞄をその男の足もとにおいて歩き去る。なんとなく秘密めいている。受け取った男が鞄を開けると、新聞の束や資料の底から小さな本がでてくる。その本の題名が、《Le Silence de la mer(海の沈黙)》だった。

そして、場面は変わり、年配の男が、雪景色の中、家から馬車を送り出す場面から始まる。彼は思い出すように、数ヶ月前からの話をし始めた。

ドイツ人がその家に留まることを知らされてから、伯父と姪の二人は約束をする。「私達二人以外は誰もいないような、今までと変わらぬ生活をしよう!」と。

Silence1_2 訪れたドイツ将校は、温厚で知識豊かな立派な若い青年だった。毎晩二人が食後の穏やかなひと時を過ごしている居間に訪れては、自分のフランスへの愛着、フランス文化への尊敬にも近い気持ちを打ち明ける。しかし、それに対して、老人は無表情でパイプを吸ったまま、そして若い姪は無心で編み物をし続けている。無言の抵抗をする2人。

落ち着いた素直な彼の話に、外見上は冷たくつくろっている二人も、内面では申し訳なく思っている。

そういう二人を前にして、ドイツ将校は言う。「祖国を愛する人々には、非常な尊敬を感じます」。そして毎晩、同じ言葉で終わり、部屋へ戻っていく。”Je vous souhaite une bonne soiree.”(おやすみなさい)

ドイツは侵略当初は、こういう緩和政策を行っていたらしい。それに対して、フランスは沈黙で対抗。この本の翻訳者である加藤周一の解説によると、「群衆の中での沈黙、家庭の中での沈黙。真昼間ドイツの衛兵がシャンゼリゼを往来するが故の沈黙、ドイツの士官が隣の部屋に宿泊するが故の沈黙・・・」、サルトルはその時代を「沈黙の共和国」と名付けたそうだ。

この将校が、休暇を取り、パリへ出かけた時の映像も興味深かった。戦後間もない時期のシャンゼリゼ通り、エッフェル塔、アンバリッド、マドレーヌ寺院・・・そしてリヴォリ通り沿いのアーケード、私もここを歩くのは好きだったけれど、映像ではなんとここに「市民の通行禁止」と書かれていた。戦時中は、ドイツ人しかこの通りを歩けなかったのね。

彼はここで、同僚たちの激しいフランス攻撃計画を知り、またユダヤ人の大量殺害方法が開発されたという話も聞き、ショックを受ける。そして彼の希望する”フランスとドイツの結婚”は理想主義だと非難され、絶望して戻ってくる。

彼は、最前線を希望した。この家を去る前日、彼はいつものように階段を下りてくる。しかし、ドアをノックしたままで、自分でドアを開けては入ってこない。とうとう業を煮やして、老人が「入りなさい!」と声をかける。

そして、パリでの話、前線に向かう話をし、「ここでの事は、忘れてください。私は地獄へ行きます。さよなら」と言う。この時彼は、「Adieu!」という言葉を使った。これは、二度と会わない相手に対して言う言葉。沈黙が流れる。青年将校は、若い姪を見つめる。しばらくして、ようやく姪が声を発した、「Adieu」・・・

翌朝、将校は名残惜しそうに部屋を歩いていると、ドアをコンコンとたたく音がする。一瞬、将校も私もドアの向こうには、姪が立っているのかと想像した・・・・が、そこにはにこやかなドイツ兵が立っていて、さっと敬礼し、「お迎えに参りました!」(心憎い場面を作りますね!小説にはない)

将校が玄関を出て行く時、近くにあった本を見つけ手に取る。挟んであった紙切れには「罪深い命令に従わぬ勇気は素晴らしい」というアナトール・フランスの言葉が書かれていた。離れたところに老人が立っていた。(この場面も小説にはない)。しかし将校は、そのまま馬車に乗り込み、去って行く。

静かな映画だった(近くでいびきが聞こえていた)。1947年という戦後の厳しい環境の中で、ヴェルコールを家を用いて27日間という短期間で、低予算で撮影を行ったという。でも、彼らの内面の葛藤は上手に表現されていて、実に格調高い作品に仕上がっていると感心した。

ヴェルコールという人物は、元はジャン・ブリュレルという画家だったのだそうだ。ところがある文筆家とで出会い、1941年突然作家に変身し、抵抗の文学である「海の沈黙を」1942年に刊行した。爆発的に売れたらしい。

簡素な文体で、どれと言って新しい技巧はないのだけれど、時代背景からみて絶望的な状況のフランス国民の誇り高い自負心をそそり、自信を取り戻すきっかけになった事はたやすく想像できる。こういう質の高い作品を見た後は、とても気持ちいいですね。

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