「キリスト昇天」と「最後の審判」を表すファサード アングレーム大聖堂
このファサードには何が掘り込まれているのでしょう?それが知りたくて、いろいろ本を読んだのですが、いやー、ほんとに面白かったです。
大雑把に説明しますと、一番下のアーチの横列は地上の出来事でして、使途達が福音書を片手に、福音の為に世界中へ散っていく様子が表されています。
少し上に上がって、窓の両側に3段になって彫像が見えますが、それは、主に使徒や選ばれた人たちで、中央上部の栄光のキリストを見上げているところ。
そして重要なのは、窓の上の大きなアーチの中でして、マンドルラの中のキリストの他、その周りに4大福音書家のシンボル、そして多数のエンジェルが上下にたくさん飛んでいます。
このファサード一面を見ていると、教会の祭壇画をみているような気分になってきました。
先ずは、一番下の段から。このようにアーケードには、それぞれ3人の使徒たちが手に福音書を持っていまる姿が見えます。彼らは、これから世界各地に赴き、福音を説く準備をしているのです。一番面白いのは、右から2番目。
こうして拡大してみると、とても素敵でしょう?人物の服装の襞も優雅ですし、動物や植物の彫りの深い繊細な彫刻がすばらしいです。このようなアーチの絡み合っている彫刻は、この地方の特色なのでしょうか?これをもっと大きくしたのが、スーイヤックのあのぐにゃぐにゃに絡み合った柱になるような気がします。それにしてもすごい技術です。左端の人物は、手に鍵を持っているので聖ペテロのようです。
さてこの半円だけに、アーチ下の細長い所に、細かく生き生きと戦いの場面が展開されています。本の説明に寄りますと、これはフランスでも人気の叙事詩「ローランの歌 La Chanson de Roland」を表していて、左から右に向かって、先ず大司教テュルパンが”le geant Abime”と対戦している場面、そしてローランとサラセン王マルシルの決闘シーンだそうです。
話はそれますが、昔習ったフランス語の教科書に面白い話が出ていました。 《ローランの部隊がサラセンの大軍に不意打ちされたとき、プライド高いローランは、”角笛を吹いて援軍を呼ぼう”と勧める親友の言葉も聞かず、結局は部隊は全滅、友人もすべて失ったのです。その時彼は、自分の剣を壊そうと石にたたきつけたのですが、その際、なんとその剣は山に巨大な割れ目を作ってしまったのです。そしてその割れ目は未だにそのままでロンスヴォー(Roncevaux)の峠に残っているという事です。》 右は、教科書に載っていたステンドグラスの写真。
いよいよい栄光のキリストの場面に行きましょう。とても綺麗ですね。
アーモンド形のマンドルラ(仏mandorie)の中にキリスト(頭部はオリジナルではありません。)が左手に福音書を持って立って、なんだか浮かんでいるように見えます。その周りを、4大福音書家のシンボルが囲んでいます。
右上:有翼人間 聖マタイ
左上:鷲 聖ヨハネ
右下:牡牛 聖ルカ
左下:ライオン 聖マルコ
頭上には、雲間からさかさまになって降りてきている天使が見えます。アーチの淵は、細いところにたくさんの天使が飛んでいます。
また、ライオンと牡牛の足元に、横に10個のメダイオンが並んでいて、それぞれ立派な人らしい顔が彫られています。マールに寄りますと、12世紀には神に選ばれた人々をこのように表現することがあったそうです。
その下、ステンドグラスの窓の上の部分との間には、6人の大きさの異なる天使がいて、キリストの昇天を喜んでいるかのように手や足を大きく広げています。動きがあってともてうれしそう。華やかな雰囲気が感じられます。
その下、窓の左横にいる女性は聖母マリアで、同じようにキリストを見上げています。彼女の髪の形は当時の女性を再現しているのだそうです。他の彫像たちも見てみましょう。
これはファサードの左側の写真ですが、マリアの横の人達は、光背を持っている使徒達や選ばれた人々でして、みんな顔を斜めに上げ、昇天するキリストの方を祝福しているようです。
ところが問題は、下左端の2つの像です。体が変にねじれていて、キリストの方へも向いていません。左端の像は、椅子に座った人物が、を抜かれている場面です。その右側は、下から炎が見えているようで、地獄へ落ち、苦しんでいる人を表しているのです。
窓の右側の写真もアップしましょう。このようにみんながキリストを見上げ昇天を祝福しています。この写真の右上の動きのある人物は、この喜ばしい出来事を多くの人に伝えようと走り出そうとしているのだそうです。
一方で、この写真では右端が切れているのですが、左端と同じように右端のアーチには、体がねじれていてキリストのほうを向いていない人物がいます。これも地獄の人でしょう。
つまりこのアーケード装飾の美しいファサードは、2つの図像学のテーマ、つまり「キリストの昇天」と「最後の審判」について彫刻されているのだそうで、《世界を裁くために再臨するであろうイエスは、「昇天」の日の姿そのままななのである》のだそうです。
ところで、エミール・マールは、”アングレームのファサードは、カオールのタンパンを模倣している”と指摘しています。有難いことに、先日のツアーでカオールの大聖堂を見ることができたのですが・・・ほんとに似ていると思いました。(右はカオールのタンパン)
マンドルラの中の左手に福音書を持っているキリスト像やその服装、また、頭の上の雲から降りてきている天使、反り返った両側の天使の格好など、ほんとそっくりです。また下にいるマリアを初め使徒達の配置の仕方も似ています。
《カオールのタンパンは、タンパン芸術が誕生して間もない時代の作品》なのだそうで、非常にすっきりと整っています。また、この教会の内部もフレスコ画あり回廊ありで、想像していた以上に魅力ある教会でした。
話は少しそれますが、前回の記事で、19世紀(1852年~1875年)に修復されたと書きましたが、その時の建築家Paul Abadieは、純粋なロマネスク建築を取り戻すという名目で修復を開始したものの、いろいろ余計な物を付け加えてしまった為に、オリジナルの姿を失わせてしまったのだそうです。
彼が加えたものは、なんと入り口の丁度上のタンパン、そのタンパンの両側斜め上にある2つの騎馬像(左は聖George 右は聖Martin)、そして上部両側に見える小塔、その間の破風なのだそうです。私はそんなこととは知らず、せっせとタンパンや騎馬像の写真を撮ってしまいました。
次回は、少しの歴史と教会内部の写真をアップすることにします。
関連記事:アングレーム①: 大聖堂の外観
③: 教会内部とアングレームの街
その他の教会については、こちらの「訪問した教会一覧」より参照してください。
参考文献: 教会内にあった解説書(英語版1枚裏表、これが意外と良かった)
アングレームの街紹介の本(仏語版現地調達)
アングレームの街のサイト
エミール・マール「図像学上・下」
ふくろうの本「ロマネスクの教会堂」
「ローランの歌」についてはこちらをご覧ください。 http://ja.wikipedia.org/wiki/ローランの歌
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