« 2006年12月に書いたこと ce que j'ai ecrit en décembre | トップページ | 複雑なイタリア語 L'italiano è una lingua complicata »

2007年1月 3日 (水)

2006年の美術展について sur l'exposition de l'année dernière au Japon

明けましておめでとうございます。

のんびりとしか進みませんが、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて早速ですが、昨年末に完結していなかった美術展について、まとめたいと思います。

    -*-*-*-*-*-*-*-*-*-

来日したベルギー国立美術館の館長さんが、日本人の美術への関心の高さに驚いたそうですが、私もいろんな美術展に行く度、そう感じています。若い人から年配の方々まで、男性も女性も同じように芸術を楽しんでいるなんて、なんと豊かなことなのでしょうか!

海外から来る美術展の質もそうがっかりすることも無く、この1年、楽しめました。

個人的にも、健康上の都合で見に行けない時もあったのが残念ですが、55の展覧会を見たことで、満足と致しましょう。また、それぞれの展覧会で、知らなかった画家や絵を発見したりして、経験したことの無い感覚を味わえる喜びは、今まで以上に強く感じています。これからも、ゆっくりと楽しんでいこうと思っています。

さて、美術のブログでは、年末には恒例の年間ベストテンなるリストを掲載しているので、(遅くなってしまいましたが)、私も年間を通して振り返ってみました。順番は付けられないので、印象の強かった10の展覧会を見た順にリストアップしてみます。(写真はすべて、クリックすると大きくなります。)

★ 大いなる遺産 美の伝統展  東京美術倶楽部創立百周年記念(2006/2/5-26)

(左:源氏物語絵巻 夕霧  右;橋本雅邦 龍虎図)

Photo_4 Photo_55

  源氏物語絵巻、紫式部日記絵詞、伝 李安忠筆「鶉図」、雪舟、天目散文茶碗、蒔絵など国宝19点を含む絵画、陶器、屏風など、一級の作品群をよくこれだけ集めてこられたなあとほんとに感心した展覧会。池大雅、鈴木其一、橋本雅邦、竹内栖鳳、横山大観・・・とにかく江戸末期以降の日本画壇の有名画家ほとんど全員の作品が出揃っていたと言っていい位でして、日本美術の愛好者なら泣いて喜ぶほどだったのではないでしょうか。

Photo_43 ★ 狩野一信の五百羅漢図  東京国立博物館特別常設展

幕末の絵師狩野一信(1815-63)の代表作五百羅漢図。増上寺が所持する「五百羅漢図」より一回り小さい図で、一幅に二図貼られており、1図に5人、一幅で10人、全50幅で500人が描かれている。非常に精密に描かれ、彩色も繊細。それでいて濃淡が鮮明で、ピンク色など今までに見られない色を使っているのを見ると、明らかに西洋の影響が感じられる。亡くなる直前まで一人でこれだけの作業をこなしていたかと思うと、頭の下がる思いがするし、彼の実力に敬服。伝統的な要素と立体的な手法とが混在した彼の技法も面白かったし、内容的にも興味津々だった。一幅に1図が描かれている大判の増上寺版がずらーっと並べて展示されているのをぜひとも見てみたい。

★ 藤田嗣治展  東京国立近代美術館(2006/3/28-5/21)

   有名になったけれど、戦いの一生だったかもしれない藤田の人生をじっくり味わうことが出来た展覧会だった。ヨーロッパの人が見ると、日本的なエッセンスがたっぷりと見えるだろう。そして、私達日本人が見ると、その画面構成は非常に西洋的センスが見え隠れする。

次の写真は、藤田の描いたフレスコ画があるランスのNotre dame de la paixの概観と内部入り口上部

Photo_45 Photo_52

★ 花鳥 -愛でる心、彩る技 <若冲を中心に> 宮内庁三の丸尚蔵館

   3月から9月まで、5期に渡って6点ずつ合計30点の若冲の絵を楽しむことが出来た。毎回感激のし通しだった。そのほか、若冲に影響を与えたという中国絵画の展示、そのほか江戸時代の花鳥画など、良い作品を無料で見せてもらった。日本庭園の散歩も気持ち良い。

Photo_56 Photo_57

★ プラド美術館展  東京都美術館 (2006.3.25 - 6.30)

   プラド美術館の所蔵品は、ほんとに精神性の高い美しい作品ばかり。今回はリベーラ・ジュゼッペ・デ(1592-1652)の「聖アンデレ」や「盲目の彫刻家」など、,カガヴァッジョに影響を受けたと思われる明暗のはっきりした技法で、人間の持つ孤独や苦悩を併せ持った崇高な人間を表している絵に感動した。ティツィアーノの技術力の高さにも納得。

Riberasan_andres_1 Tizianocharles

★ 若冲と江戸絵画展 -プライスコレクション 東京国立博物館 (2006/7/4-8/27)

   プライス氏が大学卒業祝いに買おうと思っていた車が化けてしまった若冲の「葡萄図」は、パソコンで見るとどこに惹かれたのか分からなかったが、実際見るととても魅力的で美しかった。葉の濃淡の表現、茎の曲がり具合、構図の取り方。シンプルに見えるけれど、日本画の美の骨頂だと思った。(左:長沢芦雪 猛虎図  右:酒井其一 青桐・紅楓図)

Photo_73 Photo_74

★ ラウル・デュフィ展  大丸ミュージアム (2006/9/7-26)

   画家としてのデュフィ(1877-1953)しか知らなかったけれど、非常に多才で、木版画、リトグラフ、エッチンング、水彩画、素描、陶芸、タピスリー、そして1900年代前半をモードをリードしたファブリック・デザインを手がけていたことを始めて知った。昔パッチワークに夢中になっていたことがあるので、布には非常に興味がある。押入れ半分を占める沢山の布地の中に、今回展示されてた布に似ているのもあり、今では時代遅れかなという柄が当時フランスの最先端の高級布のデザインだったのを知り、驚いた。あまりの美しい柄の布地の数々に、デュフィの想像力や独創性、色彩感覚の良さに感心した。

Dufy_1

 

Dufy_2

★ 応挙と芦雪展  奈良県立美術館 (2006/10/7-12/3)

   まさしく優等生タイプの応挙の絵と、感覚に任せて描いた弟子の芦雪の絵との対比は面白かった。芦雪の精神の自由さを証明するかのような「唐子遊図」での墨で遊ぶ可愛い子供の動作に笑ったり、正面を向いた青い目の牛や凄みのある虎や龍の表情に惹かれたり、勢いのよさに好感を持ったものの、やはり応挙の抜群の技術力、構成力には大いに感心した。2年前の「円山応挙」展を見て分かってはいたけれど、やはり彼の絵はバランスが取れていて美しいと納得。何回見ても「雨竹風竹図」はいいですねえ。

Photo_58 Photo_59

(左:円山応挙 雲龍図  右:長沢芦雪 龍図)

★ 揺らぐ近代-日本画と洋画のはざまに 東京国立近代美術館 (2006/11/7-12/24)

   江戸末期、西洋から新しい絵画の概念が流れ込んで来ると同時に、日本人の描く絵にも変化が現れた。西洋画に対抗するように日本画の定義もなされたが、現実には、どちらでもあり、かつ、どちらでもない”はざま”が浮かび上がる。私はこの点が昔から非常に興味ある話題だと思っていた。

  後に東京帝国大学学長になった外山正一は「日本絵画の未来」で日本画に期待をかけるが、美術商として浮世絵や書画をヨーロッパに売り続けた林忠正は「これからの日本において、美術の目的を全うするのは日本画ではなく洋画である」と反論。

Photo_75  一方、菱田春草は「絵そのものが差別が無くなって皆一様に統一されてしまうのではないか。ただそこに使用される材料の差異のみが存在する」と絵の普遍性を強調。ところが、同じ画家でも渡仏した久米桂一郎(JR目黒駅前に久米ビル8Fに久米美術館がある)は「私は日本画と洋画は全然系統の異なったものであると信じる」と主張。

  このように議論もさまざまだが、絵も実に多様で混沌としていて非常に面白かった。たとえば、掛け軸に油彩で肖像画、屏風に油彩で金地の模様を描き、かつ各ちりばめられた円形や四角形の絵も風景が濃厚な油絵の具で描かれていたりとか、膠彩であるのに非常に写実が強かったりとか。こういう明治初期の不思議な絵に惹かれて仕方がない。

  特に今回の最高の絵は、狩野芳崖の「仁王促鬼」ではないだろうか。フェノロサから寄与されたといわれるピンクやオレンジ、青、青緑など実に美しいパステルカラーを用いて描かれている。また構図も今までに無いものだ。普通、仁王さまは、ただ仁王さまだけ描かれていて、どこにいるのかはわからない。ところが、この絵では、奥行きのある空間の中に、しかも絨毯の上に立っていらっしゃるのだ。日本画の抽象表現に遠近法がうまく組み合わさった魅力ある絵だと思う。

★ 江戸の誘惑 -ビゲローコレクションより (2006/10/21-12/10)

   国立博物館や太田美術館で浮世絵の肉筆画というものを観ていたけれど、このビゲローコレクションほどの感動は受けたことはなかった。日本に傾倒してしまったビゲロー氏は、こんなにも多くの美しい肉筆画をボストンにもって帰ったとは、本当に驚き!保存も非常に良く、色は鮮明で、艶かしい江戸美人が華やいでいた。それにしてもなんという繊細な描写であろう!筆の細やかさ、特に着物や帯の生地の描写の美しさには参った。さらに、体の曲がり具合、首のひねり、着物の裾のはだけ方など、版画以上に鮮やかで美しかった。

Photo_62 Photo_63

 特に、寝室の風ふさぎに置かれたと言う北斎の「鳳凰図屏風」の派手な怪しい美しさにはなんだかふらふら。もう一枚、同じく北斎の「鏡面美人図」の女性の着物や帯の細やかさのすばらしいこと!非常に緻密に描かれているので、実際に見ないと分からないのが残念です。

|
|

« 2006年12月に書いたこと ce que j'ai ecrit en décembre | トップページ | 複雑なイタリア語 L'italiano è una lingua complicata »

日本美術 L'art japonais」カテゴリの記事

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

Cojicoさん

明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。

このブログを見て、私も「ラウル・デュフィ展」を見たのに、私の美術館に見学記を未掲載なのに気付きました。衣の柄のデザイン、注目でした。
「揺らぐ近代」はこれから京都展です。期待して見に行きます。

投稿: Ken | 2007年1月 5日 (金) 00時37分

Kenさん

コメント、どうもありがとうございます。こちらこそ、宜しくお願いいたします。

デュフィにあのような活動場面があったなんて、全然知りませんでした。「電気の精」の印象が強すぎるのでしょう。彼の「赤い服の少女が走り去るのを見て、人が受ける印象はフォルムと色彩が一致しないことを確信した」という経験や、また、彼の故郷がル・アーヴルだった事など彼の作風の原点を知ったようで非常に納得しました。

「揺らぐ近代」は個人的な興味だけでして、これをベストテンに入れた方は少ないかもしれません。会場も空いていました。でも、西洋の画材や思想を導入する際の画家の興味と戸惑いと苦悩、そして、その後はその混合が絵画の世界で花を開かせていく様子が歴史の流れの中で見ているようで面白かったです。

Kenさんのベストテン内の「後藤純男展」も良かったと思いますし、川端龍子も大好きな画家です・・・「大絵巻展」、見たかったです。

投稿: Cojico | 2007年1月 5日 (金) 11時40分

Cojicoさん、遅ればせですが、明けましておめでとうございます。
今年もCojicoさんのブログで未知の世界を色々と勉強させていただきたく、どうぞよろしくお願いいたします。

で、Cojicoさんのベスト10を興味深く拝見いたしました。確かに「揺らぐ近代」は面白い企画でした。中でも狩野芳崖の《仁王促鬼》は迫力ありましたね!実はこの日曜日に太田美術館で「ギメ東洋美術館所蔵 浮世絵名品展」を観てきたのですが、河鍋暁斎の《釈迦如来図》に《仁王促鬼》を想起してしまいました。やはり明治期の不思議な絵画世界です。同じように明治期の陶磁器(万博や海外輸出用)にも不思議な過剰さがありますし、あの時代の持つ独特のエネルギーということなのでしょうかね?

投稿: 花耀亭 | 2007年1月11日 (木) 03時58分

花耀亭さん、こんばんは。
お仕事でお疲れのところ、ほんとうにありがとうございます。

私のほうこそ、花耀亭さんの豊富な知識や経験から溢れ出る的確な感想やお話を楽しみにしております。宜しくお願いいたします。

早速ですが、良い点を突いていらっしゃいますね。明治時代の国策ともいえる陶磁器を含む日本伝統工芸の品々は、万博を通して海外に受け入れられるようにと、これでもか、と言わんばかりの過剰装飾が施されていますよね。
2004年、東京国立博物館での「万国博覧会の美術」に展示されていた豪華な品々を思い出しました。
殖産興業をひた走る当時、世の中すべてが怒涛のように変化している中では、日本風・西洋風などという戸惑いさえもエネルギーになったのかもしれません。

そうそう、私も今日(前からの予定だったのです)、太田美術館へ行ってきました。河鍋暁斎の《釈迦如来図》は、強烈なインパクトのあるすばらしい絵ですね。確かにこれも、顔や足の立体的表現などの西洋概念と日本伝統がミッスクされた不思議な絵でした。怖そうだけど繊細そうで、威厳があり、非常に魅力的。色もそれまでにないパステル色が入っていて綺麗でした。
きっと多くの方も同じだと思いますが、暁斎の絵には、いつも惹かれます。

投稿: Cojico | 2007年1月11日 (木) 23時25分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/204923/13995964

この記事へのトラックバック一覧です: 2006年の美術展について sur l'exposition de l'année dernière au Japon:

« 2006年12月に書いたこと ce que j'ai ecrit en décembre | トップページ | 複雑なイタリア語 L'italiano è una lingua complicata »